■農産園芸研究部門 − 作物研究室

■所在: (本所)  TEL(0957)26-4350 / FAX26-9197
■職員数: 研究5,現業4,嘱託4

当研究室では大きく分類すると、 (1)環境の変化に対応した技術の開発と、 (2)長崎県に作付け拡大が見込める水稲・麦・大豆などの品種育成・選定及びそれに必要な県下全域に必要な種子(原原種)の確保を行っています。

(1) 環境の変化に対応した技術の開発

 『1.温暖化に対応した水稲の安定生産技術の開発』として、水管理、施肥、深耕を組み合わせ白未熟粒の発生を低下させることを目的に研究を行っています。

 『2.環境保全・省力・低コストのための水稲疎植栽倍技術の確立』として、慣行から半分程度の苗箱に窒素肥料分を添加した移植を行うことで 生産費を低下させ、窒素の環境負荷を4割程度低下させることを目的に研究を行っています。

(2) 長崎県に作付け拡大が見込める水稲・麦・大豆などの品種育成・選定及びそれに必要な県下全域に必要な種子の確保

 『1.稲・麦・大豆奨励品種決定試験』、『2.長崎県特産品に適する小麦品種育成』及び高級味噌用『御島●(みしまはだか)の後継品種育成』を実施しています。  (注)●は、のぎへんに果。


研究課題

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現在取り組んでいる研究課題の紹介

 

1.環境と調和した持続可能な農業・水産業の実現

(1) 背景

諌早湾調整池(いさはや新池)の水質保全のためには、背後地からの窒素やリンを含んだ濁水の流入を軽減することが重要です。

(2) 目的

いさはや新池に流入する背後地の中山間水田地帯に肥料流出軽減を目的として苗箱施肥技術を活用した水稲の施肥管理体系を導入します。 土壌の種類が異なる2地域の現地圃場において施肥体系を検討します。

(3) 内容

育苗箱に播種時に緩効性窒素肥料を添加し、20日の育苗期間を経て本田に移植します。本田への施肥はリン酸・カリ肥料のみです。 その後収穫時期まで肥料を撒布する必要はありません。

 

2.稲・麦・大豆奨励品種決定調査(S28〜)

(1) 背景

社会情勢・経済情勢は年々変化しておりその情勢・ニーズにあわせた品種の選定が必要です。近年、温暖化による水稲の品質低下が 問題となっており、中生品種では平成16年度に「ヒノヒカリ」より高温に強い「にこまる」を選定しました。 早生品種では、登熟期がより高温となることから品質低下への影響は甚大であり、更に高温に強い品種の選定が必要です。 また、ヒメトビウンカが媒介する縞葉枯病の多発が問題となっており、縞葉枯病抵抗性品種の選定も必要です。 麦類はタンパク質含有率等の加工適性が重要視され導入されていますが、栽培特性が不十分であるため、加工適性とともに栽培特性に優れる品種の選定が必要です。

(2) 目的

長崎県に普及すべき主要農作物(稲・麦・大豆)の優良な品種・系統の選定を目指します。

(3) 内容

国等の育成機関で育成された稲・麦・大豆の品種系統の中から、長崎県の環境条件と経営事情に適する品種を選定し、奨励品種とします。

(4) これまでの成果

現在、長崎県の奨励品種(認定品種を含む)は、稲11品種、麦7品種、大豆2品種があります。。

特に水稲では、「ヒノヒカリ」より高温での品質低下が少ない「にこまる」を平成16年度に全国に先駆けて採用し、平成20、21、22年産の長崎県産 「にこまる」は、全国食味ランキングで特Aの評価を受けています。また、小麦では平成18年度に採用し、島原の手延べ素麺の原料にも使用されています。

 

3.水田機能・生産要因改善

(1) 背景

作物はその年の気象条件により、生育や作柄が異なります。特に近年は気象変動が大きく、温暖化による品質の低下や作柄の不良が問題となっています。

(2) 目的

作物の生育や作柄と気象との関係について解析し、栽培管理上の問題点や今後の改善点を明らかにします。

(3) 内容

長崎県の主要奨励品種について、毎年同一条件で栽培し、生育調査、分析調査を定期的に実施し、作柄の予測と分析を行い栽培管理上の参考データとして活用します。

 

4.長崎県特産品に適した小麦品種育成(H19〜23)

(1) 背景

長崎県には、小麦粉を主原料とした特産品が数多くありますが、そのほとんどに外国産小麦が使用されています。 しかし、近年の「食の安全・安心」や「地産地消」といった消費者ニーズに対応し、商品に付加価値を付けるためには 県独自の品種を育成することが求められています。

(2) 目的

長崎ちゃんぽん等の本県特産品に適する小麦の品種を育成します。平成24年の品種登録を目指しています。

(3) 内容

新品種の効率的な育成のため、独立行政法人九州沖縄農業研究センターと共同研究で品種の育成を図っています。 また、生産関係者、製粉業者、製麺業者等で組織する「長崎県産麦育成研究会」を設立し、この研究会の中で系統の立毛評価、 小麦粉の質及び色の評価及び試作麺の食味試験等を実施し、優良系統を選抜しています。

(4) これまでの成果

試験に供試した968系統について、栽培特性、製粉適性、製麺適性等の調査を重ね、さらに、7度の長崎県産麦育成研究会での検討を経て、平成23年8月時点で7系統まで絞り込みました。11月までに2〜3系統に絞込み、大規模試作、工場レベルでの製粉試験、製麺業者による製麺試験を実施して1系統に絞込む予定です。

 

5.御島●(みしまはだか)の後継品種育成に向けた有望系統育成(H20〜24)   (注)●は、のぎへんに果。

(1) 背景

「御島●」(みしまはだか)は昭和12年に長崎県で育成された非常に古い品種ですが、現在でも高級味噌原料として実需者のニーズが非常に 高い品種です。しかし、稈長が長いため倒伏しやすく収量が不安定で生産者ニーズに即していません。そのため、栽培面積は年々減少しています。

(2) 目的

「御島●」(みしまはだか)の味噌加工適性を維持しつつ、耐倒伏性を改善した後継品種育成に向けて、有望系統を育成します。

(3) 内容

新品種の早急な育成が求められているため、育種年限の短縮が可能な「半数体育種法」および「突然変異育種法」により有望系統を育成します。 なお、独立行政法人理化学研究所および近畿中国四国農業研究センターとの共同研究により効率的な品種の育成を図っています。

 

6.つや姫(H23〜26)

(1) 背景および目的

長崎県では離島部を中心に用水確保や気象災害回避を目的として「コシヒカリ」の早期栽培が行われており、出荷時期も早いため高い価格で取引されていました。

しかし、近年米の価格は下落しており、温暖化の影響により品質も著しく低下する年もあります。そのため、「コシヒカリ」に替わる早期水稲品種が要望されていました。そこで、作物研究室では水稲の奨励品種決定調査で有望品種の選定を行い、山形県で育成された「つや姫」を「コシヒカリ」より高温に強い品種として有望視しています。

(2) 目的

「つや姫」のもつ、「コシヒカリ」より高温に強い特性を十分発揮できるような栽培技術を開発し、早期米の品質向上を目指します。

(3) 内容

「つや姫」の高品質と良食味を両立できる施肥法を開発します。また、「つや姫」の田植え適期を推定するのに必要な高温障害回避温度を調べるために、田植え時期別の品質と気温の関係について検討します。

(4) これまでの成果

「つや姫」は「コシヒカリ」より稈長が短く倒れにくく、高温での品質低下が少なく、やや多収で食味も優れることを明らかにしました。

 

7.暖地水稲の温暖化に対応した作期と水管理による高品質安定生産技術の開発及び実証(H22〜26)


(1) 背景

近年,水稲の登熟期の高温による白未熟粒の多発や充実不足による品質低下が問題となっており,すでに高温回避のために移植時期を遅らせる対策が講じられていますが,十分な品質向上につながっていません。

(2) 目的

水稲の作期に応じた施肥量や水管理により生育量・収量構成要素を適正化し,高温下においても収量,品質の低下が少ない栽培技術を開発することを目的にしています。

(3) 内容

・作期に対応した管理技術開発と気象要因との解明
     作期ごとの適正生育量と籾数を明らかにし,収量及び品質向上に有効な施肥法を確立します。

・作期に応じた水管理法の確立
     生育期の水管理法を変えて作期に応じた水管理法を開発します

(4) これまでの成果

国委託の前期プロジェクトで,以下のことが分かりました。

・水稲品種「にこまる」は7月上中旬植えで収量・食味が低下しにくい。

・水稲品種「にこまる」は登熟期の高温で品質低下しにくいが,籾数過多で乳白粒が増加する。

・遅植えにより穂数・籾数が増加する。

 

8.特性検定試験(かんしょ)(S35〜)

(1) 背景および目的

国及び育種指定試験地から配布される育成途中の系統について、育成地では実施するのが難しい特性の検定を行い、 優良品種の育成に寄与します。当センターではかんしょの黒斑病に対する抵抗性を検定しています。

(2) 内容

かんしょの黒斑病はカビの一種によって起こります。黒斑病にかかると、いもの表面に直径2〜3センチの 黒く丸い病斑ができ、いもの内部まで変色します。発病したいもは強い苦味があり、食用にはできず、家畜に与えると害になります。 このように、黒斑病にかかると大きな損害を受けるため、抵抗性を備えていることが重要になります。

 

9.水稲新除草適用性判定試験(S38〜)

(1) 背景および目的

製薬メーカーが新たに開発し、販売を計画している承認前の水稲除草剤の効果の判定を行ったり、除草剤の水稲への影響を調べます。

(2) 内容

除草剤も含めた農薬は、作物等を病気や害虫、雑草から守る資材です。しかし、農薬は使用対象が食べ物であることや、使用する 場所も田や畑という開放された環境であるために、さまざまな面から人畜への影響、有用生物や水、土など環境への影響の有無が調べられ、 厳しい審査が行われています。

農薬は農薬取締法にもとづいて審査を受け、国に登録されてはじめて製造、販売ができるようになります。


終了した研究課題の成果の紹介

 

1.環境保全・省力・低コストのための水稲疎植栽培技術を開発しました(H19〜22)

(1) 背景

米の価格低下が続く中、省力・低コスト技術の開発が求められています。また環境負荷に配慮した農業生産も求められています

(2) 目的

稲作の労力低減と生産資材の低コスト化や、環境負荷の少ない栽培技術を開発するために、疎植栽培や施肥法の技術確立を行いました。

(3) 内容

緩効性肥料を育苗箱全量施肥して育成した苗を疎植栽培することにより施肥量の低減、種苗費、肥料代の低減、および田植、 施肥の省力化を目指しました。試験では肥料の種類と削減率や生育、収量・品質等への影響について研究しました。

(4) これまでの成果

「コシヒカリ」と「にこまる」で、疎植栽培を検討し、収量、品質は慣行栽培とほぼ同等であることを明らかにしました。 また「にこまる」の育苗箱全量施肥による疎植栽培では、専用の緩効性肥料LPS120を育苗箱全量施肥し、株間30cmで疎植栽培することにより、窒素施肥量を40%削減しても、収量、品質、食味は慣行栽培と遜色なく、環境負荷を軽減し、省力かつ低コスト栽培ができることを明らかにしました。

参考資料

成果情報:[H21] 水稲「コシヒカリ」の疎植栽培における生育特性(PDF形式)

成果情報:[H21] 水稲「にこまる」の疎植栽培における生育特性(PDF形式)

成果情報:[H22] 水稲「にこまる」の育苗箱全量施肥による疎植栽培(PDF形式)

成果情報:[H22] 水稲「にこまる」育苗箱全量施肥栽培の移植作業向上のための播種量および床土量(PDF形式)

 

2.県北高標高地で特異的に発症する水稲葉枯症の発生要因を明らかにし、軽減対策技術の開発を行いました(H18〜20)

(1) 背景

標高約200m以上に存在する水田が多い県北地域の普通期栽培水稲(5月下旬植え)では、梅雨明け前後の頃強風が吹いた後水稲葉の縁が 脱色したように枯れる症状が報告されてきました。昭和20年代から見ている農家もいる中、全国的な平成5年の日射量不足で作況が低下した時、 この症状が平坦地域にまで広がりを見せたため大問題になりました。同じ標高の水田でも発症する水田と発症しない水田が隣接したり、 品種によって症状の程度に差があり、また発症の初期は水田一部からサークル状に枯れるなど不連続性のため解明に時間を要しました。

(2) 目的

発症を起す要因を究明し、その要因を軽減させる栽培技術対策を構築することで中山間地水田の生産性向上を目指しました。

(3) 内容

発症地帯の中心である佐世保市吉井町、里美町、菰田町、東彼杵町中尾郷の4地点で発症地図作成、土壌分析、植物体分析、気象調査を実施しました。 特に佐世保市吉井町では防風ネット設置により症状軽減の実証を実施。また移植時期を遅らせることで、収量低下を最小限にしながら発症を抑えることが出来ました。

(4) これまでの成果

気象要因・土壌要因・水稲生育ステージ要因が重なった場合にのみ症状を現すことを究明しました。

気象要因としては発症する水田地帯が立地上高標高であることから次の点が平坦地域とは違っていました。

1点目は梅雨期間の雲の高さが発症地帯の標高とほぼ重なることから雲に遮られて日射量が凡そ20%以上少なく水稲は地上部が貧弱な 軟弱徒長気味であること。また日射量不足は根の成長を制限していることです。

2点目は乾燥した高温の強風(所謂フェーン風)に曝されやすいこと。そのため水稲は急激な蒸散を強いられることになります。

土壌要因としては水温が低いことから水稲の初期窒素吸収量が少ないこと。周辺が畜産繁殖地帯であることから水田に定期的に厩肥が投入され 地力(可給態窒素量)が高くなっていること。水稲の用水が不足することから鋤床が固く締められ排水性が悪いことで地力低下が少ない。 梅雨明後の地温上昇から有機物が分解され水稲に急激に吸収されるため、上位葉の伸長が促進されます。水稲生育ステージとしては出穂20日前位で 地上部の成長量が最大になる時期と重なり、水稲地上部からの蒸散量は最大です。

以上のような諸条件が重なることでフェーン風による蒸散量を地下部から供給できないため、常時開放状態の葉周辺部水孔からの蒸散が激しくなり周辺細胞が枯死に至ります

参考資料

成果情報:[平成21]長崎県北部中山間に吹く強風の特性(PDF形式)

成果情報:[平成21]長崎県北部水稲葉枯症発症地帯における日射量の特徴(PDF形式)

成果情報:[平成21]水稲葉枯症発症地帯における可給態窒素量(PDF形式)

成果情報:[平成21]長崎県北部水稲葉枯症発症地帯における水稲生育の特徴(PDF形式)

成果情報:[平成21]長崎県北部中山間に発生する水稲葉枯症の発生要因(PDF形式)

3.硬質小麦品種「ミナミノカオリ」の増収技術を確立しました

(1) 背景

本県で2006年に奨励品種に採用した硬質小麦品種「ミナミノカオリ」は、島原手延べ素麺原料用として島原地域を中心に栽培されています。 しかし、従来の軟質小麦品種と同様の栽培法で栽培した場合、収量が少なくなります。また、「ミナミノカオリ」は品質評価において パン・中華めん用に分類され、子実タンパク質含有率を11.5%以上に制御する必要があります。 そこで、「ミナミノカオリ」の高品質・安定栽培技術の確立が必要です。

(2) 目的

安定した収量及び子実タンパク質含有率を確保するために、適正な播種期、播種量、播種様式及び施肥量について検討しました。 また、収穫前に子実タンパク質含有率を予測し、適正な値に制御する技術確立についても取り組みました。

(3) 内容

A.播種期について

「ミナミノカオリ」は秋播性が低く節間伸長の開始が早いため、11月上旬の早播とすると幼穂が地上に出るのが早くなります。 このことにより、幼穂が凍死してしまう確率が高くなるため11月下旬播種が安全です。

B.播種量について

10a当たりの播種量を7.5kgから10.0kgに増やすと、穂数は増加する場合もありますが、穂長が短く、千粒重が軽くなる傾向があり 収量は増加しないため、播種量は7.5kg/10a程度でよいと考えられます。

C.播種様式について

播種条間を狭くすることにより単位面積当たりの茎数は多くなりますが、最終的な穂数及び収量に有意な差はないため、 播種条間は20cm〜30cmでよいと考えられます。

D.施肥量について

基肥(N7kg/10a)-分げつ肥(N2kg/10a)-穂肥(N2〜6kg/10a)-実肥(N4kg/10a)の分施体系においては、穂肥の施肥量に関わらず 子実タンパク質含有率は安定して11.5%以上となります。収量は穂肥量を増やすほど多くなりますが、同時に倒伏程度も大きくなるため、 適正な穂肥量は窒素成分で10a当たり4kgです。

E.子実タンパク質含有率推定技術について

穂が出揃った時期に上から2枚目の葉の長さと葉色値(SPAD値)を調査し、その2つの値を掛けあわせた数値をもとに、 子実タンパク質含有率を推定する技術を確立しました。以上、詳細は成果情報をご覧下さい。

(4) これまでの成果

今回の研究成果により、「ミナミノカオリ」の増収が可能となります。さらに、穂揃期に子実タンパク質含有率を推定し、 実肥施用により目標とする値に制御することにより、手延べ素麺に適した小麦の生産が可能となります。

「ミナミノカオリ」は西南暖地で栽培可能な数少ない硬質小麦品種です。しかし、赤かび病には強い品種ではないため、適期防除が重要です。 また、やや穂発芽しやすいため、倒伏させないように注意し、適期に収穫することも重要です。

参考資料

成果情報:[H20]硬質小麦品種「ミナミノカオリ」の栽培法(PDF形式)

成果情報:[H20] 穂揃期の葉色及び葉身長による硬質小麦品種「ミナミノカオリ」の子実タンパク質含有率の推定(PDF形式)